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Autler-Townes効果について

この記事は数理物理アドベントカレンダー

adventar.org

20日の記事です。

動機

日本語でのAutler-Townes効果についての記事が殆ど見当たらなかったため,記載することにしました。
数理物理というより物理の話なので,大変申し訳無いのですが数学はありません。

概要

Autler-Townes効果は,振動電場によって原子のエネルギー準位が変わる現象です。
二準位モデルのエネルギー準位が変わる現象についてはあまり日本語の文献が見られなかったので,そこについて詳しく記載します。
三準位モデルに関しては,電磁誘導透過で調べると様々な文献があったので,ここでは割愛します。*1

そもそもAutler-Townes効果ってなに?

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Autler-Townes効果の分類

原子や分子に電場をかけて準位構造を変えることをシュタルク効果と呼びます。
静電場をかけて水素原子の励起状態の縮退を解く問題は,摂動論で取り扱うことができます。
例えば,J. J. サクライの現代の量子力学下の第5章p. 416に一次のシュタルク効果として書かれています。*2

現代の量子力学〈下〉 (物理学叢書)

現代の量子力学〈下〉 (物理学叢書)

ここで,静電場ではなく,振動する電場,つまり光を原子や分子に照射したときにはどうなるのでしょうか?
上記の摂動論で取り扱ったときと同様にエネルギー準位の変化が起きます。
シュタルク効果の中でも振動電場によってエネルギー準位に変化が起きる現象をAutler-Townes効果と呼びます。
そのため,通常の静電場によるシュタルク効果をDC(直流の)シュタルク効果と書くことがあり,振動電場によるシュタルク効果をAC(交流の)シュタルク効果として書く場合もあります。
そのため,ACシュタルク効果をAutler-Townes効果は同じものを指しています。本稿ではこのAutler-Townes効果について説明します。

Autler-Townes効果の例

二準位モデル

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光と二準位モデル

簡単のために二準位モデルに振動電場を与えた場合について考えてみます。
この二準位モデルには縮退はなく,基底状態と電子励起状態のみが存在していると仮定し,そこに共鳴な光を入射する状況を考えます。(図2)

このときのハミルトニアンは次のように書くことができます。
\mathcal{H}=\frac{1}{2}\hbar\Delta\sigma_z+\frac{1}{2} \hbar d\cdot E (\sigma_+ +\sigma_- )
一項目が二準位モデルのエネルギーを表すハミルトニアンで,二項目が二準位モデルと振動電場の相互作用を表すハミルトニアンです。
二準位モデルのエネルギーと電場のエネルギーの差が\hbar\Deltaで, \sigma_z=|e\rangle\langle e|-|g\rangle\langle g|,  \sigma_+=\sigma_-^\dagger=|e\rangle\langle g|をあらわしています。
電場との相互作用項は,電場強度Eが弱いのであれば摂動論を使って近似的に解きますが,今回はEが十分大きく,摂動論を使って解くことができない領域の話をします。*3
近似的に解けないので,ハミルトニアンを対角化して,
\mathcal{H}=\frac{1}{2}\hbar\Omega \sigma_{dressed z}
と書くことにします。ここで,[tex: \Omega = \Dleta \pm \sqrt{\Delta2+(d\cdot E)2}]です。*4
この対角化した状態は,光が原子系に纏った状態として認知されていまして,着衣状態(dressed state)と呼ばれています。*5

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図3 ドレスト状態の模式図

ここでは,エネルギー固有状態2つだけのように見えますが,実際には光の|n\rangle|n-1\rangleでエネルギーの交換が起きているので,光子の個数分だけこのエネルギーの分裂が起きます。(図3)

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図4 Mollo tripletからの発光
この状態からの発光は,図4のように3つのピークを持つようになります。これを発見者の名前に因んでMollow tripletと呼びます。*6
ここでは,入射光と同じエネルギーで発光するパスが二本あり,エネルギーが変わるパスが一本ずつあります。そのため,中心の発光ピークが周りの二倍になっているのです (図4 b)
B. R. Mollowが1969年に理論を提案したのが初出で,*7,1975年にナトリウム原子にて実験的に初めて検証が行われました。*8
最近でも,超伝導回路や,プラズモニクスのような共振器系でその実証が行われていた記憶があります。*9
発見自体は半世紀ほどの前の理論なのですが,最近でもMollow tripletを活用した理論の論文はありました。例えば,このMollow tripletから発光した2つの光子のエネルギーを適当に決めてあげることで,光子同士相関がインコヒーレントからコヒーレントまで選ぶことができます。 *10他にも,新たにできた準位に共鳴な二準位系を配置してやることで,通常は反転分布しない二準位系に定常的な反転分布を引き起こすことができます。これは,適当な条件にしてやると,入射光よりも高いエネルギーに反転分布を作り,そのエネルギーから取り出すこともできます。*11

このように,原理は基本的ですが,二準位モデルであっても変更した準位を使ってなにかを引き起こすことができうる現象です。*12

三準位モデル

二準位モデルは単純に発光スペクトルが変わるだけでしたが,三準位モデルではポンプ光によってプローブ光のオンオフのスイッチができます。
この現象を電磁誘導透過と呼びます。詳細は以下のURLに載っていたため*13,あまり触れませんが,これ自体も非常に面白い現象です。

optipedia.info

ポンプ光がない場合には,プローブ光で励起できる物質があるとします。
これをポンプ光を当てることで,固有状態を変えてしまって,プローブ光のエネルギーに対しては暗状態(光で励起できない状態,ダークステートといいます*14)を作ってしまい,プローブ光が透過するように物質の状態を操作します。

その他の現象

二準位モデルや三準位モデルの計算の詳細や,このあたりの興味深い量子光学の話しは概ね

Quantum Optics

Quantum Optics

こちらの本に幅広く記載されています。

まとめ

数理物理ではなく完全に物理の話でした。申し訳ありません。
Autler-Townes効果が振動電場によって原子のエネルギー準位が変化する現象を指します。
特に二準位モデルについて詳細にここでは記載しました。

*1:力尽きたとも言います。

*2:私の手元にあるのは第一版なので二版では異なる場所にあるかもしれません

*3:そもそも縮退していないので,分裂する準位もありません。

*4:対角化の計算は頑張ればできます。

*5:東大の大津元一先生が有名ですね。

*6:Mollow三重項?日本語の説明を見たこと無いので申し訳ないですがMollow tripletと書きます。

*7:B.R. Mollow, Phys. Rev. 188, 1969

*8:F. Y. Wu, R. E. Grove, and S. Ezekiel, Phys. Rev. Lett. 35, 1426-1975 (1975)

*9:探す時間がありませんでした。申し訳ありません。

*10:J. C. López Carreño and F. P. Laussy Phy. Rev. A 94, 063825 (2016).

*11:稚拙ですが私の論文です

*12:私も研究から離れて二年ほど経つので最近のキャッチアップはできていません。知っている方がおられたら教えていただきたいです。

*13:電磁誘導透過で調べると説明がたくさんありました

*14:中二病っぽいですよね笑